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全道ザリガニサミット in 円山動物園
さけ科学館は札幌の水辺の生き物の調査をしています。今日はその中からアメリカザリガニについてお話します。
まずアメリカザリガニについての基本情報をお話します。アメリカザリガニは日本、特に本州以南では馴染み深い生き物ですが、外来生物です。1927年、アメリカからウシガエルのエサとして持ち込まれました。日本の田んぼや水辺に適応して北海道を除く全国に広まりました。
広まった理由は諸説ありますが、ペットや学校教材として広く普及しており、飼い切れなくなったザリガニを放流したことも理由として考えられます。よかれと思い、自然に帰してあげた行為が広範囲の拡散を起こしてしまったのです。
アメリカザリガニが活動しやすい温度は15~25度くらいで、冷たい水は好みません。水温が下がると穴を掘って越冬します。これまでの定説では、北海道は冬場に水温が下がるので適応しにくいとされ、温泉排水の温かい水のある場所にしか生息しないと考えられていました。
ところが近年になって、下水処理場で処理された処理排水の流れる川でアメリカザリガニの生息が確認されています。
札幌には下水処理場が10機あり、水をきれいにしてから川に放水しています。下水処理場が増えたことで、河川の環境が変わって来ました。アメリカザリガニと関わりがあるのは、北区にある創成川下水処理場です。ここには一度きれいにした水をさらにきれいにする高度処理施設があり、処理した水は川に放水しています。この処理水は冬でも10度以上あり、暖かいので、下水処理水は冬場に融雪槽や流雪溝として都市の雪処理問題にも活用されています。1992年には渇水状態の安春川に下水処理水を導入することでせせらぎを取り戻しています。
地元の人によると、北区の川には10年ほど前からアメリカザリガニが生息していたようです。さけ科学館では安春川と、その近くを流れる屯田川で2009年と2010年に調査を行い、生息を確認しています。2010年には酪農学園大学の学生が卒業論文で「アメリカザリガニの生息と越冬」について報告しています。
2011年に酪農学園大学とさけ科学館が共同で捕獲調査を行い、アメリカザリガニの生息状況を調べました。調査道具として、主に「どう」と呼ばれるかごわなを使い、直接捕獲のしやすい一部の川では、たも網を使用しました。
2010年6月北区安春川で確認したアメリカザリガニ
2010年から2011年にかけて、さけ科学館と酪農学園大学で行った調査データを合せて報告します。2010年9月~2011年8月までに安春川、屯田川、東屯田川、創成川を中心に110カ所で調査を行いました。このうち35カ所でアメリカザリガニを確認しました。河川の水温が上昇する8~10月に捕獲数が増えます。屯田川は最も捕獲数が多く、小さな個体が多く含まれていました。次に捕獲数が多かったのは、中型個体が多い安春川です。創成川では9㎝前後の大型の個体が多くとれました。2年間で274匹のアメリカザリガニを捕獲しました。
2010年の酪農学園の調査では屯田川において巣穴で越冬している個体を確認しています。2010年11月~2011年1月にかけて巣穴での越冬を調べる調査を行い、深さ30~73㎝の巣穴の奥にアメリカザリガニを確認しました。屯田川は冬には水がなくなるのですが、完全に土が乾くことはなく、湿った土手に巣穴を掘っていました。
生息が確認された場所とされなかった場所では冬の水温が異なる可能性があると考え、2011年11月~2012年3月にかけて冬季の水温を調べる調査しました。調査地点としては、処理排水が導水されていてアメリカザリガニが多数確認される地点が1点と、処理排水が導水されていないか影響を受けづらく、アメリカザリガニが未確認の地点3点を選定しました。調査期間中にアメリカザリガニの個体を確認した最低温度は1.1度だったので、これを基準としました。アメリカザリガニが多数確認される地点は水温が高く、未確認地点より10℃以上高いことがわかりました。アメリカザリガニが未確認の地点の水温は1.1度を下回る日もありました。
最後に結論です。アメリカザリガニは下水処理水が導水されている川で排水口よりも下流の冬でも水温が高い場所に生息していました。屯田川では巣穴を掘って越冬している個体がいました。処理排水の影響を受けない上流域や、下流域でも処理排水の影響を受けづらい池では生息が確認されませんでした。
今後の可能性として考えられることを述べます。札幌の下水処理場は建設されてから30年以上経過し、更新の時期に来ていると聞きました。更新の際に新たな放水経路ができると、さらに、その処理排水が暖かい場合はアメリカザリガニを放流すると新たな生息地を広げてしまう可能性があります。
冬季の水温の高い川は、生息する種類がもともと生息する種類とは違う種類に変化していく可能性があります。今回の調査地点では2000年以前の生息種のデータが不足しているので、高度処理排水導水以前の生息種と比較することはできませんが、今後の経過を調べていきたいと思います。
※さけ科学館ホームページで、2011年に酪農学園大学と調査した報告書を 公開しております。
http://www.sapporo-park.or.jp/sake/?p=1637
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