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全道ザリガニサミット in 円山動物園

田中 一典

ザリガニを通じた外来種問題啓発の取組み
(一部ザリガニソンの活動も交えながら)

北海道大学大学院、ザリガニと身近な水辺を考える会

田中 一典

ザリガニを通じた環境教育と外来生物問題の啓発についてお話します。日本にはニホンザリガニ、アメリカザリガニ、ウチダザリガニの3種類のザリガニが生息していますが、そのすべてがいるのは北海道だけです。ニホンザリガニは唯一の在来種で絶滅危惧種です。アメリカザリガニは要注意外来生物で、ウチダザリガニは最も厳しく管理されている特定外来生物です。

分布状況をご説明します。ニホンザリガニは東北北部の一部の地域と北海道だけにいます。アメリカザリガニは北海道以外では広く分布していますが、近年は前田さんからお話があったように道内でも札幌などで生息地を広げています。ウチダザリガニは道東を中心に、湖、ダム湖、川などある程度水深のある場所で確認されていますが、最近は水深の浅い川にも生息域を広げています。

一般の方に「北海道には3種類のザリガニがいます」とお話すると、「すごいね。自然が豊かなんだね」と反応することが少なくありません。外来生物という認識がほとんどないのが実態です。

見分け方が分からない方も多いです。本州以南ではアメリカザリガニの小さい個体がニホンザリガニだと間違っている方もいます。大きくなると特徴的な赤い色になるのですが、小さい時は茶色くてニホンザリガニと似た色です。ウチダザリガニはつめの間にある白い斑点が特徴なのですが、小さい時には分かりづらく、見分けがつきません。また、ニホンザリガニの大きな個体をウチダザリガニだと思っている人もいます。
ザリガニを見つけた時、人間の心理として、特に子どもであれば尚のこと、家に持って帰って飼育したいと思います。ところが、すぐに飽きてしまう。手入れをしないために水が臭くなる。親からは捨ててこいと言われる。だけど本人は死なせるのはかわいそうだと思っている。そこで放流することになる。というのがよくあるパターンで、外来生物の生息地が散発的に広がる要因になっています。

特定外来生物のウチダザリガニは飼育、運搬、放流などに対して非常に厳しい罰則があります。でも、そのことを知らない人が多いです。アメリカザリガニが生態系に悪影響を及ぼす要注意外来生物だということも知らない人が多いです。これらがたくさんいるということは、在来の動植物を食べながら生きているということです。特にザリガニの場合、水の中で起こっていることなので、意識されていません。

放流に対する罪意識も低いです。倫理観から死なせるよりも自然に帰す方がいいという考え方です。アライグマのように農家が明らかな被害を受けた場合は何とかしなければ、駆除しなければとなりますが、一般には自分には関係ないので無関心です。生態系への悪影響を理解していないのが実情です。

このような状況の中で外来生物は増え続けています。沼、湖など身近な水辺も外来生物だらけの場所があります。公園の池にウチダザリガニがいて、子どもたちが何も知らずに採取し、家に持ち帰って、結局飼いきれずに別の池に捨てる。そんなことが日常的に起こっています。

ウチダザリガニが在来の生態系に与える悪影響をいくつかご紹介します。阿寒湖ではマリモの中に穴を開けてすんでいる衝撃的な写真が新聞で紹介されました。釧路の春採湖では、先ほど照井さんからお話があったようにヒブナの産卵場となる水草を食べています。然別湖はニホンザリガニの生息地だったのですが、今はすっかりウチダザリガニと入れ替わってしまいました。

参考までに、特定外来生物のアライグマも非常に増えています。捕獲されたアライグマの腹の中からニホンザリガニが出てきたこともあります。釧路ではウチダザリガニの駆除のために仕掛けたかごの中でアメリカミンクが溺死していました。中のウチダザリガニを食べようとしたのです。外来生物が外来生物を食べるという事態も起こっているわけです。

ウチダザリガニの駆除は全道各地で行われ、市民参加やダイバーの協力で行われているところもあります。洞爺湖では協議会を設立し、年間10万匹を駆除しています。春採湖では駆除の成果が出ているようですが、多くの場合はとってもとっても減らなくて、根絶は難しい状況です。今後は拡大を防ぐとともに、保全の優先度が高い場所に力を入れて駆除することも考えなければなりません。照井さんが報告されたように、効率のよい駆除も調査していかなければなりません。

遠道なようですが、学校などでの子どもたちへの教育や、調査会や観察会を通して一般市民の方に外来生物の問題を伝えることは非常に大切です。「飼わない」「捨てない」「広めない」の外来生物3原則をしっかりと伝えていかなければなりません。

子どもたちは本当にザリガニが大好きです。次世代の環境を担う子どもたちにニホンザリガニの魅力を伝えたいと思います。ニホンザリガニは手でつかまえることができるし、高価な道具も必要ありません。長靴ひとつあれば十分です。ザリガニと遊んだ体験は、心に深く刻まれます。ニホンザリガニは非常に優れた環境教育の教材です。

「ザリガニと身近な水辺を考える会」はインターネットを活用し、市民参加でザリガニ調査を行う「ザリガニソン」に取り組んでいます。どこに、どんなザリガニがいるかのデータは保全の第一歩です。だれでも参加でき、身近な場所で行ったザリガニ調査を、ホームページを通して報告していただきます。

ザリガニソン」は2010年にスタートし、ニホンザリガニ、ウチダザリガニ、アメリカザリガニのそれぞれについてたくさんのデータが寄せられています。「探したけれどいなかった」というデータもとても貴重です。興味のある方はぜひご協力ください。

外来生物に関する教育はまだまだ発展途上です。生態系に与える影響がはっきりしていない場合が多く、体系的に教育として扱うのは中学2年にわずか1コマ程度です。交通ルールのように学校や地域で何度も繰り返しえ教えられていれば意識が高まるのでしょうが、ほど遠いのが現状です。しかし、外来生物は在来の生態系や生物多様性を脅かす大きな驚異です。本日参加された皆様も、今日学んだことをぜひ一人でも多くの方に伝えていただきたいと思います。


 

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