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全道ザリガニサミット in 円山動物園
私たちのNPOは釧路市の春採湖でウチダザリガニの防除活動を行っています。ウチダザリガニは環境省により特定外来生物に指定されています。先ほどのアメリカザリガニよりも、北海道の生態系により深刻な影響を与える可能性があるとされているわけです。特定外来生物は飼育や持ち運びが禁止されていますが、指定される以前は買い物をするとザリガニ釣りをさせてくれて持って帰ってもいいというようなことが行われていました。
ウチダザリガニの駆除活動は全道各地で行われていますが、その結果どうなったかの報告はあまりされていません。特に、駆除をして成果が上がったという話はほとんどありません。それほど根絶が難しい生き物です。今回は少しでも成果が上がったので、その報告をします。
春採湖は市街地にあり、周囲は住宅に囲まれています。海とつながっている汽水湖で、流入河川はありません。閉鎖環境なので、ウチダザリガニはどこかへ出て行くことはありませんし、人が持ち込まない限り入ってくることもありません。湖の中だけで一生を終えます。駆除に際して、非常にわかりやすいと言えます。
春採湖はヒブナの生息地として天然記念物に指定されています。ヒブナはギンブナが突然変異で緋色になったものです。
1986年、春採湖には6種類の水草が確認されていました。ところが、2006年、2種類になっていました。たった20年の間に起こった変化です。
水草はある種の生き物にとって、とても大切です。春採湖ではヒブナなどの魚が水草に産卵します。水草がなくなると、産卵する場所がなくなってしまいます。また、水草を主食とする水鳥が毎年飛来するのですが、水草が減少することでその数が減ってしまいました。
水草が減少した大きな原因はウチダザリガニによるものであると考えられています。春採湖の生態系を元の状態に戻すためにはウチダザリガニの駆除が急務です。私たちの活動の長期的な目標はウチダザリガニの根絶ですが、生息数を減少させるためにはただとっていればいいというわけではありません。とっている間にも増えていくのですから、効果的な駆除のためには、いつ、どういう方法で行うべきかを知る必要があり、そのための調査も行っています。
2006年、釧路市が調査を兼ねた駆除を行いました。釧路市博物館では毎年、魚が産卵する時期に人工の水草を入れて産卵場所を増やす取組も行っています。2年後の2008年には過去最高の1490匹のウチダザリガニがとれました。この年は市民の方々にも駆除活動に参加していただきました。
2011年にはさらに最高を更新し、2680匹を駆除しました。でも、生息数が増えたということではありません。先ほど効果的な駆除のための調査をしたとお話しましたが、この年は前年と調査地点を変え、より多くとれる場所に変更したのが増えた理由です。
釧路市ではこれまで合計12000匹以上のウチダザリガニを捕獲しています。それ以外にも私たちの団体が主催した駆除活動もあるので、もっと数は多いです。
「どう」設置風景
作業風景
捕獲個体
捕獲方法はどうと呼ばれるかごわなを使います。周囲5㎞の湖の湖岸に計70個のどうを1週間仕掛け、毎日引き上げてエサを変えます。エサは釧路産のサンマで、ちょっと贅沢です。捕獲したウチダザリガニは、雌雄の判別やサイズの計測、どの地点でとれたかなどを記録します。
駆除したザリガニをどうするかは同様の活動をする方、皆さん悩むところだと思います。私たちは釧路市動物園に引き取ってもらい、タンチョウなど飼育動物のエサとして活用してもらっています。
2009年度の調査ではザリガニは湖の北側で多く捕獲されていました。南側は捕獲数が少なく、水草が繁茂していました。2006年までは全然見られなかったマツモが大量に、一面に繁茂していたのです。これは、駆除の効果などでザリガニの数が減り、水草が回復したのだと思われます。2009年度にはじめてこのような現象が確認されたので、駆除の効果で水草が再生する可能性があり、それまで実施してきた効果が現れたと思われます。
次に月別の捕獲数を見てみます。2009年には毎月調査を行いましたので、そのデータによると、最も捕獲数が多いのは9月で、オスもメスも非常に多いです。5月、6月、10月はメスの捕獲数が非常に少ない結果でした。10月は産卵の時期、5月6月は稚エビを抱えているので、メスの動きが活発ではない可能性が考えられます。メスがかからない時期に捕獲しても効率的ではありません。7月8月はさほど多くはありませんが、メスもオスも同じくらい捕獲できました。9月は数も多いので、この時期に集中的に捕獲するのが効率的です。
次に大きさを計測した結果をお話します。ウチダザリガニは9月~10月に交尾・産卵を行います。3年目に体長8cmまで成長し、性的に成熟して繁殖できるようになります。捕獲したザリガニのほとんどは成熟個体でした。でも小さいサイズがいないかと言うと、そうではありません。小さい個体は中に入っても隙間から出てしまうので捕獲できないのです。
捕獲したザリガニのサイズを2008年から2011年にかけて比較してみると、次第に小さくなっていました。大きい個体が捕獲されて少なくなっているのです。今後も捕獲を続けると、8cmを超える成熟個体がいなくなる可能性もあります。そうなると、産卵するメスが少なくなり、供給が減ります。次は小さい個体をどう捕獲するかが課題になります。
昨年度の捕獲数が過去最大であることから、春採湖にはまだまだウチダザリガニが生息していることが分かります。しかし、体サイズの縮小化や南側の水草の回復から、少なからず駆除の効果が現れていると思います。このような効果が湖全体で確認されるまで捕獲調査を続けていかなければならならないと思います。
春採湖は市街地にあるので散歩などに訪れる人がたくさんいます。調査を始めたころは「何をしているのですか」とよく問われました。しかし今では「ウチダザリガニの捕獲調査ですね。頑張ってください」と言われるようになりました。通りかかりに駆除の様子を見るだけでも市民の皆様への普及の効果があると実感しています。
ウチダザリガニの駆除は全道各地で行われていますが、春採湖のように少しでも効果が上がることを願っています。
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