活動報告

北広島高校生物部論文2009

2009年調査

北海道北広島高校生物部部員の皆さんは身近な河川に生息する外来種の問題を考えるため、アメリカザリガニについて調査しています。研究の成果を 送っていただいたので、ご紹介します。調査によると、札幌市内ではアメリカザリガニが生息する河川が増えており、越冬する個体や繁殖も確認されています。

身近な河川における外来種の生息調査
-アメリカザリガニの分布―

北海道北広島高校 生物部
3年 廣島美枝 鮫島千尋 佐藤元彦
2年 石山弘朗 谷川舜介
1年 八木哲史

1 はじめに

私たち北広島高校生物部は、昨年、札幌市近郊の河川において環境省のレッドデータブックで準絶滅危惧種(NT)に指定されているエゾトミヨの生息環境などを調査し、河川環境に人間の手が加えられていない場所を守ることが、エゾトミヨの生息を容易にするのだという結論を出した。
昨年の調査の際、札幌市を流れる安春川で魚の採集調査を行った際、大量のアメリカザリガニを確認した。それをうけて、私たちは「本来北海道では生息できないと言われている外来種のアメリカザリガニが何故この川に生息しているのか」ということと「アメリカザリガニが生息していることによって在来生態系に影響は無いのか」ということについて疑問を感じた。
そこで、今年は「北海道でアメリカザリガニは越冬しているのか」と「アメリカザリガニが在来生態系に与える影響」について、周囲の環境との関係を踏まえて調査を行なった。

2 アメリカザリガニについて

エビ(十脚)目アメリカザリガニ科。体長は8cm~12cmほどで寿命は約五年。雑食性で色は赤褐色。水温約10℃~30℃の水深が浅くて流れのゆるい泥底に生息。汽水域でも生息可能。
北海道を除く日本全国に広く分布している。北海道では十勝川温泉、ポロト湖、函館市湯の川などの温泉水が流れ込むところに限定的に分布するとされる。また、札幌市内の河川でも散発的に採集されることがある。北海道の分布が限られるのは冬の低水温のためとされる。

3 調査地の概要

身近な河川における外来種の生息調査-図1 各調査地点を図1に示す。
安春川のSt-1において、2008年11月下旬から2009年8月下旬にかけて毎月調査を行なった。また、安春川での定期調査に加え、屯田川のSt‐2、東屯田川のSt‐3、茨戸耕北川のSt‐4、ポロト湖から流れ出す川(以降、「ポロト湖」とする)のSt‐5の4地点で2009年8月に調査を行なった。

4 調査方法

各調査地点において手網(20㎝×30㎝)を用いて、4~5人で魚とアメリカザリガニを約1時間かけて採集した。魚は種類とそれぞれの個体数を、アメリカザリガニは成長および繁殖を調査するために、個体数と体長、右鋏の長さを計測して記録した。また、調査日の気温と調査地で計測した水温を記録した。

5 結果と考察

今回の調査では安春川、屯田川、茨戸耕北川、ポロト湖の4地点で多数のアメリカザリガニの生息が確認され、さらに安春川ではアメリカザリガニの越冬も確認できた。
ここでは、「アメリカザリガニの越冬・生息および繁殖と河川の水温の関係」「アメリカザリガニが他の生物に与える影響」について考察した。

① 採集された外来種
 「外来種」とは、主に海外の他地域から人為的に持ち込まれ、世代交代を繰り返し、定着した生物の事であり、国内の他地域から持ち込まれた「移入種」とは異なる。一般的に在来生態系に対して与える影響としては、他の生物の駆逐、環境を変化させる、遺伝子の撹乱などがあるため、外来種は持ち込むべきではないとされる。
今回の調査では、調査対象であり北米原産で要注意外来生物に指定されている「アメリカザリガニ」のほか、中国原産で広く観賞魚となっている「タイリクバラタナゴ」、南米原産でシンガポールから輸入されるものと国内で生産されるものがいる観賞魚の「グッピー」が確認された。

② 安春川においてのアメリカザリガニの越冬
身近な河川における外来種の生息調査-表1
安春川で11月~8月に調査した結果を表1に示す。
安春川の11月~8月にかけての水温と気温の変化を図2に示す。
身近な河川における外来種の生息調査-図2-3
 2003年に北広島高校生物部で安春川を調査した時にはアメリカザリガニは採集できなかったが、昨年の調査で生息が確認された。今回の調査では1年を通じ、真冬でもアメリカザリガニが採集できたことにより、安春川において、アメリカザリガニが越冬していることがわかった。安春川は、図2に示したとおり、気温・水温がともに最低となっている1月においても、10.3℃と高い水温を保っている。また、今までの調査では、安春川の最高水温は昨年夏の30.3℃となっており、1年を通じてアメリカザリガニ生息における好適水温付近に保たれていると考えられる。
これは安春川が水源としている創成川水再生プラザから排出される下水の高度処理水が原因となっている。安春川は本来北海道開拓の際に湿地から水を抜くために作られた河川だったが、周辺の住宅地化が進んで水が枯れかけていた。しかし、昭和62年に国の「ふるさとの川モデル事業」に認定され、整備がすすめられ、平成4年から創成川水再生プラザより1日5300トンの処理水を水源として流すことでせせらぎを取り戻した。この処理水は1年を通じて10℃以上の水温を保っているそうで、私たちが実際に2月に水源の水温を計測したところ、13.5℃あった。このために川の水温は1年を通じて10℃以上に保たれて、アメリカザリガニの生育が可能な環境になっていると考えられる。
図3のアメリカザリガニの平均体長が示すように、昨年11月から今年の7月まで平均値がほぼ上がり続けた。加えて、今年の8月の調査では抱卵個体と稚ザリガニが採集された。また、6月の調査から大型個体の死骸が増えてきた。これらのことから、6月頃から世代交代が始まって、8月頃からアメリカザリガニの繁殖が本格的に始まったと考えられる。

③ 他の調査地点
身近な河川における外来種の生息調査-表2 安春川でアメリカザリガニの越冬を可能にしている原因を、水源である「下水の高度処理水」による高水温であると判断した私たちは、安春川と同じ処理水が流されている屯田川、東屯田川、茨戸耕北川で調査を行なった。また、温泉水の流入による高水温が考えられ、アメリカザリガニの目撃情報のあった白老町のポロト湖でも調査を行なった。その結果を表2に示す。
 屯田川、茨戸耕北川、ポロト湖でアメリカザリガニの生息が多数、東屯田川では死骸が一個体確認できた。
 屯田川のアメリカザリガニは川岸の植物や川底の石の影などに生息していた。また、稚ザリガニも数多くおり繁殖していると考えられる。茨戸耕北川のアメリカザリガニは植物の根元の他、コンクリートの壁面に多数あいている直径5cmほどの穴の中に多く生息していた。抱卵個体も確認され、繁殖していると考えられる。ポロト湖のアメリカザリガニは植物の根元に生息していた。稚ザリガニと抱卵個体も確認され繁殖していると考えられる。
 これらのことから、屯田川、茨戸耕北川、ポロト湖では、繁殖していると推測され、冬期間も「下水の高度処理水」や「温泉水」によってアメリカザリガニの生息に充分な水温が保たれていて、越冬していると考えられる。
東屯田川ではアメリカザリガニは死骸一個体のみしか確認されなかった。しかし、屯田川、茨戸耕北川と同様に下水処理水を流しており、いったん大量に放流してしまうと繁殖する可能性が考えられる。
また、創成川では2003年の北広島高校生物部の調査で、「放流されたと見られるアメリカザリガニ」が少数確認されたことがあるが、生息には至っていないようだった。しかし、私たちは確認できなかったが、創成川でのアメリカザリガニの目撃情報があった。ここにも下水処理水が大量に流されているため、場所によっては今後大量の越冬・繁殖も考えられる。

④ 魚との関係
身近な河川における外来種の生息調査-表3 安春川で11月から8月までの各月ごとに採れた魚の種類と個体数を表3に示す。
安春川では、月ごとに多少変動はあるが、1年を通じて多くの種類の魚が大量に採集された。昨年と今年の夏を比べても大きな変化はなかった。少なくとも、アメリカザリガニが大きな影響を及ぼしているようには見えない。また、今回の調査でアメリカザリガニが確認できた河川のうち、安春川では、環境変化に弱く準絶滅危惧種に指定されているエゾトミヨを、屯田川では、同様に絶滅危惧Ⅱ類に指定されているエゾホトケを確認することができた。一般的に、アメリカザリガニは河川の環境を変え、そこに棲む生物を絶滅にまで追い込んでしまう可能性があると言われている。この点からもアメリカザリガニが在来生態系に大きな影響を及ぼしているとは言えない。
しかし、アメリカザリガニは条件さえそろえば繁殖して個体数を増加させる可能性が大きい。2003年の調査で、安春川にはアメリカザリガニが確認されなかったことを合わせて考えると、安春川では急速に繁殖が進んでいるのかもしれない。さらに繁殖が進めば、道外で報告されているように、アメリカザリガニが水草などを大量に減らして河川環境を変えてしまうかもしれない。さらに、主に絶滅危惧種などの、環境の変化に弱い生物などに大きな影響を与えることも考えられる。

6 まとめ

基本的にアメリカザリガニは北海道では水温が低すぎて越冬できないとされている。しかし、餌となる生物が豊富、川が浅い、植物が繁茂していることなどで流れが遅くなるなど、アメリカザリガニが好む場所がある。そこに、何らかの外的要因により水温が一年を通じてアメリカザリガニの好適水温付近に保たれれば、北海道での越冬が可能となる事が今回の調査を通して分かった。越冬だけではなく、抱卵個体や稚ザリガニなどといった繁殖を裏付けるものが確認された。このままいくとアメリカザリガニは生息を拡大し、道外で多数報告されている河川環境を変化させるなどの被害を生むのではないか、と私たちは考える。
今回調査を行った地点のうち、屯田川、東屯田川、茨戸耕北川、安春川は創成川水再生プラザから排出されている高度処理水によって、冬期間も水温が高く保たれ、北海道では本来不可能であるはずのアメリカザリガニの生息が可能となってしまった。だが、アメリカザリガニの越冬を防ぐために、この高度処理水の排出を止めてしまうと、川が枯れてしまい、現在形成されている魚などが豊富に生きている生態系を破壊してしまう。さらに、今回確認されたエゾトミヨやエゾホトケなど絶滅危惧種の生息場所をも奪ってしまい、これでは川を再生させた意味がなくなる。北海道にアメリカザリガニが生息しているのは、アメリカザリガニが悪いのではない。前述の通り、アメリカザリガニは本来北海道には生息していない。もともと飼育していたアメリカザリガニを人間が何も考えずに放流し、その適応力によって定着してしまったのである。現在のところ在来生態系に目立った影響は確認できないが、これからも影響が出る可能性はないとは断言できず、もしアメリカザリガニの分布が広がった場合、他河川で在来生態系に影響を与えることも考えられる。安春川では、外来種のタイリクバラタナゴだけでなくグッピーも確認された。そのうちタイリクバラタナゴは過去の調査において他の複数地点でも生息を確認でき、北海道内でも広く生息している。アメリカザリガニも例に漏れず、さらなる生息拡大をしていくことが考えられる。
生物を飼育するなら責任を持って最後まで面倒をみるべきである。特に外来生物を飼育するなら、世話が出来なくなったからといって、自分たちの勝手な都合で生物を放流してはいけない。最後まで責任を取れないというのなら最初から外来生物を飼うべきではない。
そもそも「一概に生物を殺すのはいけない」と考えてはいけないのかもしれない。在来生態系のことを考えると、外来生物は放流するより殺した方が、本当に生物のことを考えていると言えるからである。アメリカザリガニに罪があるわけではない。責任は人間にあるのである。

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